これから介護保険制度を導入する中国の現状
一人っ子政策で加速した高齢化問題
中国は社会主義国を建国したのち、長期にわたる人口の増加となり、高齢者問題は存在していませんでした。高齢者の介護は家族が行うものとされ、老後のために子孫を増やすということで、子世代が親の介護を担ってきました。
しかし、2000年になり、そんな中国も高齢化社会となり、以後は毎年、高齢者数は右肩上がりになってきています。特に、1980年生まれの一人っ子世代の親世代も高齢者となり、加速度的に高齢化問題が進んでいます。
そうした流れの中、2016年に中国人力資源・社会保障部は「長期介護保険制度のパイロット事業展開に関する指導意見」を発表しました。それが「中国版介護保険」の実施への動きです。
中国版介護保険の実態① 法規制の欠如
高齢者向けの法律は、1996年に施行された「中華人民共和国老人権益保障法」という法律しかまだありません。これは、高齢者福祉での国家の責務を規定し、高齢者の扶養義務者を広く設定した法律です。中国らしい特徴としては、「親元への頻繁な帰省の強制」という項目もあり、国内でも波紋が広がったほどです。
実際にまだ、中国版介護保険は、パイロット事業のレベルにあります。いわば、まだ自治体のモデル事業レベルです。15のモデル都市で試験運用を始めました。
しかし、法的根拠なく、事業を推進した結果、各地でバラバラな内容の介護保険が出来上がってしまいました。その統一化が大きな課題となっています。
下図は15のパイロット事業
中国版介護保険の実態② インフラの不足
さらに、中国では、要介護高齢者数が4,000万人にのぼっているが、高齢者福祉施設のベッド総数が700万床しかなく、そのうち、入所ベッドの総数は200万床とされていて、高齢者の入所が非常に難しい状況となっています。
さらに、公設公営施設は、入所基準が不明確な所が多いとも言われています。本来、公設公営の施設は低所得者向けであるが、その不明瞭さから、入所対象者である社会的弱者の入所がかなわず、比較的健康な人であり、且つ富裕層等の入所も増えており、ミスマッチが起きているとされています。
中国版介護保険の実態③ 人材育成の脆弱性
また、中国では、介護を担う職員は大半が女性で、農村出身の中高齢層が多いと言われています。中卒者が多く、学歴が低いこともあり、専門的なケアの知識に乏しく、良質ではない介護が散見されるようです。
さらに、介護現場では日本も同じですが、人手が不足しています。そのため、現状では資格がなくても採用されおり、それが介護の質に直結しています。
日本に活かせる点
ただ、日本の場合は基本的に、ホームヘルパーの場合は、初任者研修の修了が求められており、一定の質の担保になっていますが、中国にはそれがありません。やはり、質の担保をしていくためには、日本の介護人材教育の手法が中国には必要でしょう。
また、中国は介護保険ビジネスにおいては、今のところ、市場をどんどん開放しています。その点で、目下、日本の介護ノウハウを売り込む好機ともいえます。
機械産業等のモノづくり技術とは異なり、ヘルスケア産業は、中国が軍事転用するような代物ではないため、そうしたいわば「介護知的財産」はどんどん売り込む、それで我が国も外貨を稼ぐことの一つに繋げていくべきと思います。