高齢者の保有資金の現状とは ~平均値ではなく、中央値を考えるべき~
理論上は平均貯蓄額と必要介護費用はほぼ同額
高齢者の財布の中身はどうなっているのか。統計数字をもとに紐解いていきたいと思います。
総務省の「2020年 家計調査報告」によると、65歳以上の2人以上世帯の平均貯蓄額は、2,324万円となっています。
では、高齢者の毎月の所得と支出についてはどのような状況になっているのでしょうか。これも総務省によると、65歳以上の夫婦のみ無職世帯の可処分所得は225,501円でした。一方の支出は224,390円となり、1,111円のプラスでした。
ただ、これは単純に65歳以降の生活を比較的健康に過ごしている方にのみ、近からず遠からず当てはまるといえる数字です。
実際はピンピンコロリとはなかなかいきません。厚生労働白書では、日本人の平均寿命は男性80.98歳、女性87.14歳です。しかし、ここで考えなくてはならないことは、健康寿命と呼ばれるものです。それは男性72.14歳、女性74.79歳となっています。
つまり、平均寿命-健康寿命=平均介護期間となります。男性は約9年、女性は約12年となります。その間は、生活費とは別に介護費用が必要となります。
平成30年度の生命保険文化センターの調査によると、介護費用の月額は平均7.8万円という結果でした。
単純にそれを介護年数とかけ合わせますと、男性7.8万円×12ヵ月×9年=842.4万円、
女性7.8万円×12ヵ月×12年=1,123.2万円となります。それを足し合わせると、1,965.6万円となります。
夫婦合わせて老後の介護資金は、約2,000万円必要という試算になりました。
もちろん、これは様々な信用できる数字のデータを積み上げたに過ぎませんが、65歳以上世帯の貯蓄額が2,324万円であると考えると、理論上は何とかなりそうな計算です。
・65歳以上世帯においては、看過できない格差が存在
無論、これはあくまでも理論上です。というのも、65歳以上の2人以上世帯の平均貯蓄額は、 約2,300万円ですが、この額を大半の人が持っているかというと、そうではありません。
では、大半の人はどのくらいの貯蓄額かを考える一つの基準は、中央値という考え方であり、全体の真ん中はいくらかというものです。この中央値で考えると、65歳以上の2人以上世帯の額は、1,555万円となっています。
よって、700-800万円近くの差が実際にはありそうです。では、平均値と中央値でこれだけの差が生じる理由は、一部の富裕層が平均を押し上げているからです。
先の調査によると、3,000~4,000万円の人が8.7%、そして、4,000万円以上保有の世帯は17.3%となっており、3,000万円以上保有世帯が全体の1/4以上を占めています。
その一方で、300万円未満の世帯が15.4%存在しています。つまり、65歳以上世帯においては、看過できない格差が存在しているといえるでしょう。
今後は、高齢者の試算を考えるにあたっては、「平均値」ではなく、「中央値」を参考にすべきと考えます。つまり、ボリュームゾーンとされる、一番数が多い人たちです。
老後2千万円問題と言われたことがありましたが、高齢者資産の平均値だとそのやりくりは成り立ちますが、中央値だとなりたちません。また、それ以下の方々もたくさんいます。
平均値という考え方は、一部の高齢者資産家が平均値を押し上げていることを忘れてはいけません。実際の高齢者資産には、中央値という観点から政策を考えていくべきと思います。